映画「熱海殺人事件」1986



 1986年に制作公開された映画である。原作はつかこうへい。原作者であり、本映画の脚本も担当している。元々は舞台「熱海殺人事件」が1973年から存在し、その実写映画化ということである。それに伴い、主役の名称を変更したり、舞台から映画への展開で色々と変更があったようである。出演者は仲代達矢風間杜夫志穂美悦子竹田高利と個性派ぞろい。特に主役の仲代達矢はなんとも魅力的な、独特な、底知れない・・・・不気味さも兼ね備えた絶妙な印象を与えている。志穂美悦子と久石譲のつながりは、1983年のアルバムでの作編曲。また、風間杜夫と久石譲とのつながりは1985年のシングルでの編曲・・・と、出演陣と久石譲とのつながりもまた面白い。


 曲調はArt of Noiseを彷彿とさせる、久石譲のソロアルバム、1985年の「α-BET-CITY」、1986年の「CURVED MUSIC」に代表されるサンプリング・シーケンス・ミニマル的アプローチが特徴。サックスのソロも聴き応えがある。この2枚のアルバムと同時期のサウンドであるので当然、サウンドも近くなっている。


 映画本編は戯曲風であり、密室に近い舞台設定であり、サスペンス要素もあるという、難しい題材である。仲代達矢に代表されるなんとも怪しい登場人物たちと久石譲の奇抜なサウンドとが見事に組み合わせれた、他に類を見ない独特な作品となっている。


 サウンドトラックは発売されていないものの、久石譲のアルバムである「B+1」にテーマ曲のみ収録されていて聴くことができる。以下はCDに収録された久石譲のコメント。


「エスニックというのが僕の一つの顔であるなら、もう一つの顔がミニマルだ。これまでのアニメーション映画のなかでもいろいろ使ってきたんだけど、全編にわたってミニマルをメインにしてやったのが、この『熱海殺人事件』。だからいわゆるきれいなメロディというのではなく、よりサウンドっぽく映画的処理なのではないかと思う。映画としては久石流B級作品といえるものに、これが登場してくる。B級というのは悪い意味ではなく、やりたいことをやっているという意味でのB級なのである。」(『I am 〜遥かなる音楽への道〜』より)


 そしてこの映画の中で使われてる曲にビックリする!!ラスト近くの感動シーンで流れる曲が、後年の「となりのトトロ」の「風の通り道」とほぼ同じメロディラインとコード進行である。(後半は変わるが)「熱海殺人事件」が1986年の作品、「となりのトトロ」が2年後の1986年である。以前、何かの記事で「風の通り道」はトトロ用ではなく別の目的で作っていた・・・・というエピソードを見たことがある。それが2年前の「熱海殺人事件」のことだったのだろうか。今では殿堂入りの名曲「風の通り道」の初出が「熱海殺人事件」であることはあまり知られていない。




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