「リングにかけろ」は車田正美氏原作の少年ジャンプで連載された作品である。連載期間は1977年から1981年である。このイメージアルバムは連載が終了してから制作されたということになる。車田正美氏は「聖闘士星矢」でも知られる漫画家である。その当時のジャンプが300万部を突破したらしいが、その一番の功労者はこの「リングをかけろ」であった。まさに少年ジャンプの看板作品。そのヒットを受けてのイメージアルバム制作である。
久石譲はこのような、漫画や小説などの作品から音楽を制作する「イメージアルバム」という形態の仕事に多く携わっている。例えばジブリの作品でも、「ナウシカ」「ラピュタ」「トトロ」「魔女の宅急便」など、それ以降の作品でも、映画本編の制作の前に、イメージボードや脚本・絵コンテなどを題材に音楽を制作している。このような形態はジブリに限ったことではなく、いろりおな作品で作られており、1980年代からの流行りだったのだろう。ジブリなどでは、この「イメージアルバム」で作られた曲をベースにしてサウンドトラックの制作をするという流れが定番となった。
「リングにかけろ」のイメージアルバムは、作品中に出てくる各登場人物の必殺技をイメージのたたき台として、各曲が作られたようである。その作曲には久石譲だけではなく、ギターの平沢幸夫氏、ドラムの井上茂も1曲ずつ担当している。久石譲の解説にあるように、当時、このメンバーで制作活動をしていたようである。久石譲個人であたった、というより「Square Orchestra」メンバーとの化学反応で出来上がった、ということも言えそうである。
当時のテクノあり、ハードロックあり、アフロあり、ラテンあり、ミニマルあり、バラードあり、サントラの様なアプローチもあり・・・・様々なジャンルが入り混じり、1曲の中に混在している。Davil Fantasyのミニマルなどは2年後のナウシカを予感させるし、Screw Danceの中間部は3年後のアルバム「α・BET・CITY」の「α・BET・CITY」のシタールのソロ部分を彷彿させる。80年代の商業音楽で多用される久石サウンドの原型・初期型を聴くことができる、なかなかに聴き応えのある一枚だ。特にライナーノーツでも久石譲が語っている「アフロ」のビートというのは、その後のアニメや映画のテーマ曲などに多用されるパーカッションの独特なリズムで、このアルバムがこの「久石サウンド」の発祥に近いかもしれない。とにかくこのアルバムで実験的な意味もあるが、多くの特徴的なジャンルを取り込んだことは、80年代久石譲のハシリと言ってもいいのではないだろうか。「僕の大好きなクラフトワーク」と語っているのも興味深い。
全12曲のうち、久石譲が10曲、平沢幸夫が1曲、井上茂が1曲の作曲を担当。久石譲が全曲編曲を担当している。「MKWJU」の翌年、ナウシカの2年前、久石譲 当時32歳の頃の仕事である。
< 音楽スタッフ >
作・編曲: 久石譲
作曲: 平沢幸夫(ハリケーン・ブギ) 井上茂(ギャラクティカ・サイクロン)
演奏:久石譲 & Square Orchestra
Dr:井上茂
Bass:高橋ゲタ夫
EG:平沢幸夫
Lat:横山達治
Key:久石譲
Sax:ジェイク・H・コンセプション
EG : 土方隆行(青春ジャングル)
ミキサー:岡田さん(曲解説文より)
原作者コメント:車田正美
漫画にとって致命的に欠けた部分といやあそりゃ音だぜ。(中略)しかし漫画に音や音楽をつけようとした時、いつも生じる問題だが読者のそれまで抱いていたイメージと大きくかけはなれちまう恐れがあるってことなんだ。(中略)はじめての曲というものを聞いた時、最初っからピンとくるもんと、幾度となく聞いて次第に「結構いいんじゃねェか」となってくるもんがある。オレにとってこのレコードは後者だった。デモ・テープつうのかな、それを聞いた時最初は「うにゃ?」「これが竜児か?」「これが剣崎のイメージかよ?」と思ったが、仕事の合い間に何度となく聞いているうちに好きな曲になってきたぜ。ファンがこれを聞いてどう思うかはわからねェ。ただ最後の曲・・・「青いたて髪」てェのはいいと思うぜ。セクシーだぜおとっつあん!!
(ライナーノーツより)
久石譲コメント
師走の気忙しい最中、北風と共にこの仕事が舞い込んできた。残念ながら内容は知らなかった。さっそく読む・・・外の寒さを吹きとばすような熱い内容だった。注文としてはハードロック調のものとの事。これはグッドタイミングだ。ちょうどその頃、新しい仲間達とニューウェーブ以降の音楽をやろうとしていた所だった。さっそく皆に話してそのメンバーでこのアルバムに臨むことになった。構成としては、それぞれの必殺技をタイトルにしてそれを拡げるという形を取った。が、イメージアルバムなので、内容は限定されずに、むしろ自由な立場で音楽的な追求ができた。手法的には、パターンミュージックやアフロビートなどを中心に、カラフルに又、パワフルに仕上げている。車田さんの描く必殺技はそれこそマンガチック?なほど誇張されているが、だからこそ青春の測り知れないパワーを表現するのにふさわしいと思う。僕も負けずに、今一番自分にフィットしている音楽で勝負してみた。
(ライナーノーツより)
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Seishun - Jungle
青春ジャングル
久石譲コメント
四角いジャングル、そこで激突する青春のパワー。さがらよしあき氏の詩が良い。「鏡のむこうがいつも敵の棲家・・・」とは己自身の事か?土方隆行氏のギターがフィーチャーされている。とにかく、皆さんで唄ってほしい曲です。(ライナーノーツより)
Square Symphony
スクエアーシンフォニー
久石譲コメント
高嶺竜児の必殺技。もちろん主人公だ。バックのリズムがちょっと変わっているでしょう?これは、アフロのリズム、つまり、アフリカのリズムなのです。具体的に言うと、6/8拍子型と3/4拍子型が同時進行しているリズム、つまりポリリズムなのです。この曲以外にもこのリズムが何曲か出てきます。スケールの大きな曲です。(ライナーノーツより)
Thunder Drums
サンダードラム
久石譲コメント
録音の時スタッフではこの曲の事を「日本の祭り」とか「ニュー盆踊り」とか呼んでいたけど、まさしくそんなイメージがピッタリの曲です。そういえば、この「ローリングサンダー」と言う必殺技を使う支那虎一城の家は、剣道一家らしいので、この日本的なリズムは意外にマッチしているかも知れない。中間部のオルガンソロは、後で差し替えるつもりだったけれど、最初のテイクをそのまま使っています。(ライナーノーツより)
Hurricane Boogie
ハリケーンブギ
久石譲コメント
香取石松の必殺技、石松と言う名からは、浪花節的なイメージが強いけれど、むしろその明るく元気のいい所をイメージして見た、ギターの平沢幸夫さんの作曲。ハードなロックに仕上がっていてソロもタップリ聞かせてくれています。(ライナーノーツより)
Jet Melancholy
ジェットメランコリー
久石譲コメント
男性であって女性のごとく。ご存知 河井武士は日本チームの中でも特に人気があるらしい。そこでこの曲では、ハードさの中にもやさしさを出そうと、レゲエ調でやってみました。中間部で聞かれるフォークギターのソロはタイムシェーパーという機械を通していて、そのために不思議な雰囲気が出ています。(ライナーノーツより)
Galactica Cyclone
ギャラクティカサイクロン
久石譲コメント
天才、剣崎順のテーマ。明るいラテンタッチの曲に仕上がっています。ティンバルズ横山の達っちゃん。おそらく今最もノリの良いラテンパーカッショニストだと思う。作曲は恐怖の左利き(僕もだけど)ドラマー、井上シーちゃん。速めの16ビートのリズムが心地良い。(ライナーノーツより)
Screw Dance
スクリューダンス
久石譲コメント
イントロの言葉は、ボコーダーという楽器を通しています。これはテクノポップなどでよく使う楽器なので皆さんもご存知だと思います。そういえば全体にテクノッぽい雰囲気があるけど、使っていいるリズムはアフロなのですよ。ファンキータッチの楽しい曲です。(ライナーノーツより)
Sicilian Funk
シシリアンファンク
久石譲コメント
ハリケーンボルトと同じリズムですが、こちらの方がいわゆる重ノリの演奏になっています。ギターを中心とした前半のメロディとシンセがメロディをとる後半とが交互にくり返されるというシンプルな構成になっています。(ライナーノーツより)
Davil Fantasy
デビルファンタジー
久石譲コメント
これはちょっと聞き慣れない感じだと思いますが、パターンミュージック又はミニマルミュージックと言われている音楽です。それは最小単位の音型を何回も繰り返しながら徐々に変化していく・・・・といったものなのだけれどテクノポップなども これの影響下にある音楽だと言うことができます。又この曲は、僕一人だけで、演奏し多重したものです。もちろんシークエンサーなどは使用していません、だから大変でありました。夜一人で部屋を暗くして聴くと又別の楽しみがあるかも知れませんよ・・・・。(ライナーノーツより)
Techno Crash
デビルファンタジー
久石譲コメント
これはもうドイツ代表でしかも、頭の良い参謀がコンピューターなどを使うと言うならば、僕の大好きなクラフトワーク風にテクノル他ないではないですか!これもローランドのTR-808やプロフェット-5を使用して一人でやっています。いや、もう一人、ミキサーの岡田さんが、華麗なる録音テクニックをもって、一味も二味も違う奥行きのある音楽にしてくださいました。感謝・・・・。(ライナーノーツより)
Apollon Dream
アポロンドリーム
久石譲コメント
これも不思議な雰囲気の音楽です。日本チームにとって最大の敵であって最強のチームギリシャ。そしてギリシャ神話の神々の名をなのる戦士達。僕の中で古代ギリシャと夜明け前の地中海のイメージが結びついて、こんな曲になってしまった。底に流れる太鼓のリズムは、ややアフロ調ですが、パターンミュージックの一つです。(ライナーノーツより)
Aoi - Tategani
青いたて髪
久石譲コメント
今、戦いは終わり、リングを降りて控え室に向かって歩いていく一人の選手・・・。その胸に去来するものは・・・。そんなイメージで作った曲ですが、それは何もリングの上だけではなく、我々の生き様の中にもある青春の後ろ姿というような気持ちも唄っています。ジェイクのサックスが、メロウなムードを漂わして最高です。(ライナーノーツより)
[1982-J32-SGK1-N07]